電子工作関連の自作基板やテスト回路を組む際にCR2032やLIR2032といったボタン電池を扱うことがこれまで何度かありました。
CR2032は一次電池となり充電は出来ませんが3Vの電圧を取り出すことが出来るので、マイコンを使った回路などで用途によっては電源供給を小さな電池から行えるので便利に使える場面は多いと思います。
そんなことから、CR2032やLIR2032ボタン電池(コイン電池)をブレッドボードで使う際にあると便利なこのような電源モジュール基板を製作しました。
そしてCR2032電池と同サイズのものでLIR2032電池があります。
LIR2032は充電出来るタイプの二次電池なので定格3.7V(満充電時4.2V)とCR2032とは電圧特性が異なっていますが、サイズが同じなのでその点だけ注意して使えばほぼ同じ用途で使うことが出来ます。
これまでLIR2032電池の充電にはリポバッテリー充電器を使い充電電流を落として簡易的に使っていたのですが、専用充電器が無いと不便だな!
ということでLIR2032ボタン電池や1セルリポバッテリーの充電で使える充電モジュール基板を製作してみました!
充電用のコントローラーチップはTP4056やTP4054などこれまで何度か使ったことがあるチップがいくつかあったのですが、今回MCP73831チップのテストも兼ねて初めて使ってみました。
目次
MCP73831を使ったボタン電池LIR2032 & リポバッテリー充電器の製作!
ボタン電池(コイン電池)と言ってもいろいろとサイズがありますが、よく使われるものでCR2032があります。
電化製品のリモコンなどでよく使われる直径20mmで高さが3.2mmの小さな電池ですね!
CR2032は一次電池なので充電はできませんが、同サイズの二次電池タイプのものにLIR2032があります。
サイズが全く同じなのでほぼ同じ用途で使用することが出来ますが、LIR2032はリチウムイオン電池となるのでCR2032の3Vに対して定格3.7V(満充電時4.2V)となり電圧特性が異なっています。
LIR2032の容量は一般的にCR2032の1/5程度しかありませんが出力電圧が高いので3.3Vデバイスの駆動で使うといったことも出来ます。
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LIR2032電池用の専用充電器を持っていなかったので、充電コントローラーチップMCP73831のテストを兼ねて充電ボードを製作してみました。
そのことを承知の上、本記事を参考にして頂き全て自己責任で行ってください!
製作した充電モジュールについて!
Type-C端子から手軽に充電出来るミニサイズの充電ボードをイメージし、LIR2032ボタン電池および1セルリポバッテリーの充電が出来るこのような充電モジュールにしました。
充電チップには今回始めてMCP73831-2を使ってみました。
同様なタイプの充電チップはこれまでTP4056やTP4054などを使った自作基板を製作したことがありますが、MCP73831は入手性が良いチップなので(秋月電子さんなどで入手出来ます)、今回のような簡易的な充電回路を組む際に便利に使えると思います。
チップサイズも小さいのでスペース的に逼迫した基板に組み込むことも容易に出来そうです!
今回MCP73831-2チップを使いスイッチ切り替えにより充電電流を変え、LIR2032電池以外に1セルリポバッテリーの充電でも使えるボードにしています。
全体の回路構成はこのようになります。
非常にシンプルな回路構成で実現することが出来ました!
充電コントローラーIC MCP73831を使った回路について
今回始めてMCP73831チップを使ってみたのですが、リチウムイオン電池やリポバッテリーの充電をシンプルな回路構成で作ることが出来るので便利に使えそうです!
少し充電コントローラーチップ MCP73831について見ておきます。
リチウムイオンやリチウムポリマー電池(バッテリー)で使える充電コントローラーチップにはTP4056やTP4054といったTP40◯◯シリーズのチップは便利でよく使っていますが、性能(仕様)的にはMCP73831もこれらチップとほぼ同等なものになるかと思います。
TP4056から温度監視機能がカットされたTP4054とパッケージサイズも同じSOT-23の非常に小さなチップとなっています。
MCP73831の電源電圧は3.75~6Vの定電圧電源を使用します。
USB端子のVBUS(5V)電源からの充電も行えるということですね!
データシートにある充電回路の基本接続はこのようになります。
シンプルな回路構成でリチウムイオン電池等の充電回路が作れます。
DW01など過放電保護回路などと組み合わせれば、パーツ点数も少なくシンプルな回路構成でリポバッテリー等を使った回路が組めそうですね!
MCP73831 チップの種類
MCP73831チップにはいくつか種類があり、充電最大電圧が4.2V~4.5Vまで選択できます。
リチウムイオン電池やリポバッテリーの充電での使用では、その充電電圧は4.2Vとなるので今回MCP73831-2チップを使っています。
- MCP73831-2 充電電圧4.2V
- MCP73831-3 充電電圧4.3V
- MCP73831-4 充電電圧4.4V
- MCP73831-5 充電電圧4.5V
パッケージサイズおよび使用端子
今回使用したものは5ピンタイプのSOT-23-5パッケージのものです。
ピン番号 | シンボル | 用途 |
1 | START | 充電状況確認用のLED取付端子 |
2 | VSS | 電源端子(GND) |
3 | VBAT | リチウムイオン電池接続端子 |
4 | VDD | 電源端子(3.75~6V) |
5 | PROG | 充電電流の調整 (接続する抵抗値により変える) |
充電電流の選定(PROG端子に接続する抵抗)
TP40◯◯シリーズのチップ同様、MCP73831も[PROG]端子に取り付ける抵抗値により充電電流を変えることが出来ます。
MCP73831の充電電流は15mAから最大500mAまで対応しています。
充電電流の計算式はこのようになります。
IREG(充電電流) = 1000V / Rprog
※RPROG(kΩ)
※IREG(mA)
LIR2032は高容量タイプのものもあるようですが、一般的に45mAh程度となっています。
リチウムイオン電池の充電は1C充電が基本となるので、充電電流は最大45mAといったところになるかと思います。
上記式から45mAで計算すると、RPROG端子に22kΩの抵抗を接続すれば45mAの充電電流となります。
また今回製作した基板では1セルリポバッテリーの充電も行えるようにしています。
電子工作用途で一般的によく使われるであろう小型な400mAh前後のものを想定して、2.7kΩの抵抗を付けて充電電流を370mAに切り替えが出来るようにしています。
ステータスLED(START端子)
MCP73831チップは充電状態(ステータス)を確認するための[START]端子が付いています。
通常HIGH状態となっていますが、充電中はLOWレベルに落ちるオープンドレインとなっています。
このようにLEDを接続すると、充電中に点灯するステータスランプとして使うことが出来ます。
今回製作した基板ではもう一つLEDを追加して、充電中は赤色LEDが点灯し、充電が完了すると緑色LEDが点灯する構成としました。
バッテリーが接続されていない状態だと両方のLEDが点灯するようです。
START端子のHIGH/LOWが繰り返されている状態なので正確には点滅しているのだと思いますが・・・データシートを見てもそのことに関して特に記載が見つからなかったので、こういう仕様なのかな?
TP4056チップでも同様なことが起こります。
発熱について
動作テストをした際に電圧が3V以下に下がったもう廃棄レベルのリポバッテリーの充電をした時に大きな発熱がありました。
データシートを見てみると、MCP73831はリニア式の充電チップとなり電源と充電池との電圧差がそのまま電力損失となるようです。
チップ自体が発熱するということですね!
MCP73831には接合部の温度により充電電流を制限する機能もあるようなので発熱によりチップが破損することはなさそうですが・・・
このように電池電圧が低い場合や電源電圧が高い場合(6Vまで使えます)は、その電圧差による発熱が発生するようです!
動作テスト
LIR2032および300mAhのリポバッテリーで充電テストを何度か行いましたが、問題なく動作してくれています!
1C充電での充電電流に設定しているので、ほぼ想定通りの充電完了まで1時間半といったところでした。
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基板発注(JLCPCB)
基板の発注は今回もJLCPCBさんにお願いしました。
基板製作料金および送料を合わせて500円程度(基板5枚の料金です)で製作することが出来ます。
他社と比べてトータルコストが圧倒的にお安く出来るのでオススメです!
基板データ(ガーバーファイル)をダウンロード出来るようにしておきます。
何かの参考になればと思います
LIR2032 Charger(Gerber)
また、JLCPCBでの基板発注方法に関してはこちらの記事で詳しく紹介しているので合わせて読んで頂ければと思います。
基板製造時に任意の位置に自動的に入ってしまう製造番号は電池ホルダーに隠れる位置に入るようにしています。
JLCPCBで発注する際は、以下項目にチェックを入れておくと追加料金がかからず指定位置に製造番号を入れることが出来ます。
送料区分はOCS NEPを選択してトータル500円ほどの基板となりますが、発注から8日で手元に届きました。
JLCPCBさんはいつも早くて安い、基板の試作では毎回助かっています!
パーツの実装
0805サイズのパーツをベースとしているので手はんだでも実装は可能ですが、MCP73831チップはリード線が0.95mmピッチなので少し難しいかもしれませんね!
パーツの実装はミニリフロー装置『MHP30』を使いました。
コンパクトで非常に便利なリフロー装置なので愛用しています!
使用パーツ一覧
今回の基板製作で使用したパーツ一覧です。
パーツ | 定数 | 入手先 |
抵抗 (0805) | R1/R2 5.1KΩ R3 2.7KΩ R4 22kΩ R5/R6 1kΩ | Amazon / AliExpress |
コンデンサ (0805) | C1 4.7μF C2 10μF | Amazon / AliExpress |
LED (0805) | LED1/LED2 | Amazon / AliExpress |
ポリヒューズ (0805) | F1 500mA | AliExpress |
充電チップ | U1 MCP73831-2ATI/OT | Amazon / AliExpress / 秋月電子 |
端子 | J1 Type-C端子 | AliExpress / 秋月電子 |
J2 JST-PHコネクタ(SMD) | AliExpress | |
CR2032ホルダー | BT1 | AliExpress / 秋月電子 |
スイッチ | SW1 6P DPDT(SMD) | AliExpress / 秋月電子 |
CR2032 / LIR2032 ブレッドボード電源モジュールの製作
CR2032やLIR2032ボタン電池をブレッドボードの電源レーンに直接差し込んで使える電源モジュールも製作してみました!
こちらの記事も合わせて見て頂ければと思います。
最後に!
電子工作用途で使うLIR2032用の専用充電器を持っていなかったので、充電コントローラーチップMCP73831のテストも兼ねて充電モジュール基板を製作してみました。
市販されている製品を購入する方が手っ取り早いわけですが、電子工作としては自分で自作してみるのは大変面白く、そしてデータシートを何度も読み込みテストを重ね・・・、知識も身に付くのがいいですね!
MCP73831は安価で入手性もよく小型でパーツ点数も少なく充電回路を設計する事が出来るので、今後製作する自作基板などでも使ってみようかと考えています。
何かの参考になればと思います・・・。
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