電子工作でKiCadを使った自作基板の製作を始めたことから最近ヒートガンを導入しました。
はんだゴテではなかなか実装が難しく手間がかかるSMD(表面実装)パーツも手はんだで行うより圧倒的に早くて綺麗に実装する事が出来ます。
ヒートガンを使えばパーツの実装以外にも通常のはんだゴテでは難しい作業も行えます。
例えば長いピンヘッダーを取り外し新しいものに取り替えるといった作業でははんだゴテでは非常に大変ですが、ヒートガンを使えばゴッソリと一気に外すことが出来ます。
初めてのヒートガン選びは非常に迷いました。
上記記事でご紹介したようにSNSで非常に多くの方からアドバイスを頂き初めてのヒートガン購入に至ったのですが、同時にマイコンで制御する、いわゆる『はんだ付けステーション』と呼ばれるものもあると便利だよということも教えて頂きました。
電子工作用途で使うはんだゴテは長らく白光のFX600を使っていました。
安価なタイプのはんだゴテと比べて加熱速度が非常に早く簡易的ではありますが温度調整も出来る使いやすいはんだゴテなので、このFX-600を使われている方結構多いと思います。
白光さんで用意されている交換用のコテ先も種類が豊富で一般的な電子工作用途では大抵のことは対応出来るかと思います。
私もこれまでFX600を2台体制で電子工作用途で使ってきました。
そしてはんだ作業の頻度が高くなってくるとマイコンで正確な温度制御等を行えるはんだステーションを使うとさらに便利になります。
ヒートガンを使ったパーツの実装ではICチップなどピッチの狭いパーツではブリッジする事がよくありますが、そのような箇所をコテを使って修正するといったヒートガンとのセットで使う用途で私は購入しました。
マイコンを使ったPID制御による正確な温度設定や一定時間はんだゴテに触れないと自動的にスリープモードに移行したり、またベタGNDなどコテ温度が逃げやすい部分では一時的にコテ温度を大きく上げるブーストモードなど・・・一度使ってしまうともうFX-600には戻れない感じです!
はんだステーションは国内では白光さんも販売されています。
白光のはんだステーションはお値段的に少しお高いイメージがあり、またあの黄色と青色のカラーリングもちょっと古くさいといったイメージを持っていました。
という事でこれまで導入には至らなかったのですが、ヒートガンの機種選びをしている時に多くの方にオススメ頂いた『KSGER T12』というはんだステーションを購入しました。
KSGER T12は白光のはんだステーションでも使われているT12というコテ先(チップ)を使うことが出来るT12完全互換機的な位置付けとなるはんだステーションになるかと思います。
内蔵されているマイコン(STM32)で制御するタイプのはんだステーションとなり、比較的安価な価格で入手することが出来る機種として海外では非常に人気が高いようですね!
目次
マイコン制御で機能が豊富!はんだステーションKSGER T12を使ってみる!
ヒートガンを導入したのとほぼ同時期にこのはんだステーション『KSGER T12』も購入しました。
商品名を見ても分かるようにコテ先(チョップ)として白光のT12シリーズのものが使える白光の互換機的なはんだステーションになります。
使用するチップにより温度校正(キャリブレーション)を個別で行うことができ、自動でスタンバイモードやスリープモードへの移行・指定時間コテ温度を上昇させるブーストモードなど多くの機能が搭載されています。
制御チップにはSTM32が使われておりPID制御による正確な温度設定が出来るようになっています。
購入して半年ほど使っていますが、非常に使いやすく便利なはんだステーションなのでもうFX600には戻れないかな?
通常のはんだ作業もこればかり使っています。
外観チェック
KSGER T12本体は片手に収まるほどのコンパクトなサイズ感となっています。
はんだ作業では基板やパーツなどが作業スペースを占領してしまいますが、コンパクトなので邪魔になりにくい設計なのが良いですね!
ヒートガンの上にも置けてしまうくらいコンパクト!
KSGER T12の前面パネルの形状は2パターンあるようです。
アルミCNC削り出し?パネルが使われたものを今回購入、フラットなノーマルタイプのパネルと比べカッコいいという理由で選びました。
操作系は前面に付けられているロータリーエンコーダーノブ1つで全ての操作を行います。
背面に電源スイッチとACケーブル接続端子、ヒューズが仕込まれています。
本体は非常にシンプルな形状でカッコいいですね!
販売されているKSGER T12には本体ファームウェアがV2.XのものとV3.Xのものがあるようです。
私が購入したものはおそらく最新のものとなるハードウェアバージョンが3.10・ソフトウェアバージョンが3.1Sのものとなります。(記事執筆時2023.03.20現在)
3Dプリンタで簡単なスタンドを作り少し傾斜する形で使っています。
ディスプレイの表示が見やすくなるのでオススメです。(後述します)
付属品
KSGER T12はAmazonでも扱われているのを見かけたことがありますが、基本的に現状海外サイトからの入手になると思います。
電源ケーブル(ACケーブル)は日本国内で使用する場合、USタイプの形状を選択する必要があります。
USタイプではアース端子が付いた3ピンタイプの端子形状となっています。
このようなアース端子付きの電源タップが必要となりますが、無ければ3P-2P変換アダプタを用意しておく必要があります。
T12チップはこの長いチップ内に発熱体とセンサーが組み込まれているダイレクトドライブカートリッジ式のものとなります。
白光のT12チップを後から個別で購入するとなるとそれだけで結構なお値段となるので数本セットになったものを今回購入しました。
KSGER製のT12チップとなります。
白光のチップとの比較はできませんが半年使って全く問題なく使えています。
ちなみに付属T12チップは、D24/BC3/KU/ILS/K/B形状の6タイプが付属していました。
ハンドル部分は標準で細いタイプの9501ハンドルが付属しています。(プラスチック製です)
FX600と比べかなり細い形状です。
このタイプのハンドルを使うのは初めてですが、鉛筆を持つような感覚で細かい作業が出来るので私は使いやすく感じました。
ハンドルの形状はオプションパーツとして多数用意されています。
FX600のような少し太いグリップ感で使用したい場合は907ハンドルを別途入手して使うことも出来ます。
私はこの標準タイプの細身のハンドルが使いやすく感じたのですが、付属のものはプラスチック製で軽いためアルミ合金製のオプションハンドルに変えてみようかとも考えています。
主な仕様
簡単に製品仕様をまとめておきます。
入力電圧 | AC100-240V |
温度調整範囲 | 50-480℃ |
最大出力 | 120W |
ディスプレイサイズ | 1.3インチ |
制御コントローラー | STM32 V3.1S |
ハウジングの素材 | アルミニウム |
本体サイズ | 130mm×88mm×38mm |
基本的な操作方法
KSGER T12の操作は前面に付いているロータリーエンコーダのみで全操作を行います。
操作できる項目が結構多いのでその操作方法が慣れるまで少し分かりにくく感じますが(メニュー画面の呼び出し等)、通常作業時に使用する基本機能に限ってはシンプルなので簡単に使えるように作られています。
まず通常作業で使う基本機能を見ていきます。
通常(ノーマル)モード
電源投入時に起動するのがノーマルモードです。(設定で変更出来ます)
通常作業で使う基本モードです。
このモードではディスプレイ左上に小さな文字で設定温度が表示され、現在温度は画面中央に大きく表示されます。
使用するコテにもよりますが、通常時370℃の設定で私は使っています。
起動後数秒(5~6秒程度)で設定温度まで加熱されます。
現在のコテ温度が設定温度になるとビープ音で知らせてくれます。
また画面右上には使用している電力がパーセント表示されます。
通常設定温度に到達すると10%前後で推移しますが、加熱時には大きく上昇します。
画面左下には選択した使用するコテ先(チップ名)が表示されます。(上記写真ではB1チップを使っています)
使用するチップを選択する事により温度校正(キャリブレーション)データを使い正確な温度設定が出来ます。(キャリブレーション方法に関しては後述します)
ノブを1度押すと設定温度の変更画面になります。
ノブを左右に回し設定温度を上下させもう一度ノブを押すと設定完了です。
自動的に設定温度になるようにコテ温度が変化します。
これが通常使用するノーマルモードでの操作です。
はんだゴテ(ハンドル)に一定時間触れないで指定した時間が経過すると自動的にスタンバイモードに移行します。
さらに時間が経過しスリープモードが有効になっている場合は、そちらに移行します。
コテ先の酸化等による劣化を防ぐ便利な機能です!
ハンドル内には傾きを検知するセンサーが搭載されています。
ハンドルを持ち上げるまたはノブを押すとスタンバイモードからノーマルモードに復帰し設定温度まで自動的に加熱されます。(復帰パターンも設定項目から変更できます)
スタンバイモード
設定で指定された一定時間操作がないと自動的にスタンバイモードに移行します。
スタンバイモードに移行すると画面の表示がSETからSTB表示に切り替わります。
スタンバイモードはコテ温度を設定した温度まで降下させて待機するモードです。
デフォルト設定では15分間操作が行われないとスタンバイモードに移行し、コテ温度を100℃の状態でキープする設定になっています。(変更可能)
高温によるコテ先の劣化が抑えられ、またノーマルモードに復帰するのも早くなります。
スタンバイモードからの復帰方法は設定により切り替えることが出来ます。
デフォルトではハンドルを持ち上げると自動的に復帰する設定になっています。
手動でスタンバイモードにするには、ノブを反時計回りに素早く1度回転させると移行します。
さらにもう1度回転させるとスリープモードに移行します。
スリープモード
スタンバイ状態でさらに設定した時間操作が行われないとスリープモードに移行します。
スリープモードではコテの加熱は完全に停止します。
手動でスリープモードにするには、ノブを反時計回りに素早く2度回転させると移行させることが出来ます。
ブーストモード
ブーストモードでは設定された時間、コテ温度を上昇させます。
熱が逃げやすいベタGNDや大きな端子、また太いケーブルの処理などで使えます。
ノブを時計回りに素早く回すとブーストモードに移行します。
画面表示がSETからBOOST表示に切り替わります。
デフォルトでは現在設定している温度から50℃プラスして3分間ブーストさせる設定となっています。(変更可能)
これらの項目が通常作業で使用するモードとなります。
その他の機能
基本機能以外のその他機能として、各種設定項目の変更・使用チップの変更・チップのキャリブレーションを行うことができます。
各種設定変更項目
ノブを長押しする事により各種設定変更画面になります。
ハードウェア or ソフトウェアのバージョンにより設定項目に多少違いがあるかもしれませんが、簡単に設定項目内容を見ていきます。
01.PID Adj
温度調整で使われるPID制御の項目ですが、これに関してはデフォルトで問題ないかと思います。
PID制御に関して詳しく分かる方は細かく調整してもいいと思いますが、私はあまりよく分かっていません!
02.Standby
スタンバイモードに移行するまでの時間とスタンバイモードで待機中のコテ温度の設定が出来ます。
デフォルト設定ではスタンバイモードへ移行する時間は15分、待機コテ温度は100℃に設定されています。
またスタンバイモードからの復帰方法も選択できます。
- SHAKE ハンドルに内蔵されているセンサーを使い持ち上げると復帰
- SWITCH ノブを押すことにより復帰
- AUTO 上記どちらかで復帰
03.Sleep
スタンバイモードに移行してからさらに設定時間経過するとスリープモードに移行させます。
04.Boost
大きなGND部分や太いワイヤーのはんだ付けなどで一時的にコテ温度を上昇させることが出来る機能です。
ノーマルモードで設定している温度からプラスして何℃上昇させるか、またその継続時間を設定する事が出来ます。
05.Code end
画面に表示される温度表示をCPU温度かハンドル内に内蔵されている温度かの切り替えです。
- CPU CPU温度
- NTC ハンドル内センサーの温度
06.Tip
T12シリーズのチップは非常に多くの種類があります。
所有しているコテ先(チップ)のみチェックを入れておけばチップの変更やキャリブレーションが便利になります。
付属していた6種類のチップにチェックを入れておきました!
07.Stepping
ノブを回転させ温度設定をする際に何℃刻みで上下させるかの設定です。
08.Password
パスワードの設定が出来るようですが、これは使わないかな?
お子さんがいて不意に起動しないようにとかでしょうかね?
09.Scr save
スクリーンセーバーのON/OFFの設定です。
10.Buzzer
KSGER T12は設定温度に到達した時やモードを切り替えた時にビープ音が鳴ります。
このブザーのON/OFF設定です。
[11.Voltage] [12.LowVol-P]
外部電源?を使用している時の内部電圧の表示だと思います。
[LowVol-P]から低電圧保護のためのアラームを出す電圧の設定も行なえるようです。
13.Power On
電源投入時に立ち上がるモードの選択です。
デフォルト設定では[Running]になっており、起動後コテの加熱が始まります。(ノーマルモードで起動)
- Standby スタンバイモードで起動
- Running 通常のノーマルモードで起動。設定温度まで即加熱されます
- Sleep スリープモードで起動
[14.Desolder] [15.Pump set]
はんだ吸引機と接続した時の設定だと思いますが、KSGER T12にその機能はありません!
ハンドルと交換して接続できるのかな?
おそらく他の機種とファームウェアを共通で使っているのでしょうかね?
16.Language
表示する言語の設定です。
日本語はないので英語表示で問題ないと思います。
[17.Date Time]
時刻の設定です。
本体内部にRTC用の電池が内蔵されているので設定時刻はコンセントを抜いても保持されます。
18.RTC Adj
クロック精度を設定。
19.RTC Init
クロック精度をリセット。
20.Show UI
表示画面を切り替えます。
Interface1はデフォルトで設定されているディスプレイ画面です。(詳細表示)
Interface2に変更すると温度設定と使用チップ表示に切り替わります。
21.Sys Info
システム情報の表示です。
22.Init
上記各種項目の設定変更内容を工場出荷時のデフォルト設定にリセットします。
設定項目は以上です!
使用チップの変更
ノブを押しながら時計回りに回転させると使用チップの変更が出来ます。
選択出来る数が多いので上記設定項目にある[Tip]に手持ちチップのみチェックを入れておくと選択しやすいと思います。
キャリブレーションを行い、使用するチップを選択することにより正確な温度設定が出来るようになります。
コテ先(チップ)のキャリブレーション方法
キャリブレーションを行っていないチップではチップ名の横に[(0)]と表示されます。
キャリブレーションを行わなくても極端な温度の誤差はないとは思いますが、複数のチップを使う場合個別でキャリブレーションを行い使用するチップを選択することにより正確なコテ温度で作業が出来ます。
コテ温度を正確に計測できる専用機器もあるようですが、デジタルマルチメーターに熱電対素子を接続してキャリブレーションを行ってみます。
コテ先に熱電対素子を当て上手く熱が伝わるようにはんだを流し込みます。
これでかなり正確な実温度の計測が出来るはずです。
今回先端が細いコテ先(ILS)を使って行います。
まず使用するチップを選択しておきます。
キャリブレーション前は370℃の設定温度に対して実温度は338℃になっていました。
それではキャリブレーションを行ってみます。
ノブを押しながら反時計回りに回転させるとキャリブレーションモードに入ります。
[Start]をクリックして開始します。キャリブレーションは3段階で行われます。
Adj Pointが457℃・357℃・257℃の3段階で行われ、高温・中温・低温といった具合です。
ビープ音が鳴るとその温度でのキャリブレーションは終了です。(少し時間がかかります)
Real Tmp[457℃]に対して実温度は437℃でした。
ここでノブを回しReal Tmpを[437℃]に合わせ、ノブをクリックし次の温度でのキャリブレーションを行います。
次はAdj Point357℃での測定が開始されます。
Real Tmp[357℃]に対して実温度は338℃でした。
同様にReal Tmpを[338℃]に修正しノブをクリックします。
最後にAdj Point 257℃での測定が開始されます。
同様にReal Tmpの温度を修正しノブをクリックして完了です。
キャリブレーション済みのチップではチップ名の横の表示が[(0)]から[(*)]に変わります。
設定温度370℃に対して実温度も370℃、うまく校正出来ているようです。
設定温度を300℃に落としてみましたが、こちらも正確な温度が出ているようです!
新しいチップを初めて加熱して使用する時の注意点
新しいT12チップを初めて加熱して使う場合、エラーが頻発します。
また設定温度付近を上下してなかなか温度が定まらないということも起こります。
これは公式サイトでも紹介されていますが、空焼きというのでしょうか?を行う必要があります。
高温(約400℃)・低温(約200℃)・中温(約300℃)といった具合にコテ温度を変化させ設定温度にピタッと定まるように何度か繰り返すことにより正常に使えるようになります。
3Dプリンタでスタンドを製作
KSGER T12はコンパクトボディーで機能が豊富なので非常に使いやすいはんだステーションだと思いますが、作業スペースの設置場所によってはディスプレイの表示が見にくくなる場合があります。
目線に近い位置にある台などに設置して使う場合はいいのですが、デスクにベタ置きするとディスプレイが小さいので表示が見にくくなる場合もあります。
3Dプリンタで15度傾けたこのようなスタンドを製作したのですが、表示が見やすくなり使い勝手が良くなりました!
最後に!
比較的安価で入手できるはんだステーションとしてデザインも良く機能が豊富なので非常に使いやすいはんだステーションだと思います。
海外の方がおすすめされるのも納得です!
通常のはんだゴテにはスタンバイモードやスリープモードは付いていないので、はんだゴテの切り忘れや長時間駆動によるコテの劣化など気になってしまう場面がありますが、スタンバイモードやスリープモードにより自動的にコテ温度を制御出来るのは非常に便利ですね。
また、はんだ作業の際にあると便利なアイテムをこちらの記事でまとめているので合わせて読んで頂ければと思います。
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